2015年9月14日月曜日

名曲紹介♪「故郷の空」と「麦畑」 ~ライ麦畑でつかまえて~

♪「故郷の空」 (作詞 大和田 建樹)

1夕空晴れて 秋風吹き
 月影落ちて 鈴虫鳴く
 思えば通し 故郷の空
 ああ 我が父母 いかにおはす

2.澄行く水に 秋萩たれ
 玉なす露は ススキに満つ
 思へば似たり 故郷の野邊
 ああ わが弟妹(はらから) たれと遊ぶ


<写真>

 


 台風の影響の大雨がやっと止んでみると、季節はすっかり秋になって、「故郷の空」が似合う季節になりましたね。

 「ザ・日本の秋」を歌った美しい曲ですが、この曲の作詞者は、「♪汽笛一声 新橋を」の歌詞で有名な「鉄道唱歌」を作詞した大和田建樹(おおわだ・たけき 1857年~1910年 愛媛県出身)さんです。

 東京師範学校(現・筑波大学)の教授をしていた大和田さんが、故郷を遠く離れて暮らす秋の夕暮れに、ふるさとの両親や兄弟を思って作った歌です。

 この歌には、軍歌的要素はまったくありませんが、日露戦争や太平洋戦争を題材にした映画(例えば「二百三高地」)に、遠く離れた戦地で、故郷を思う歌として、この歌が度々、登場します。
 明治の歌ですが、現在でも「古さ」を感じさせない、ふるさとを偲ぶ歌として、秋になると思い出される名曲ですね。


 ところで、この歌のメロディーの方は、実はイギリス・スコットランドの民謡です。
 原曲は、ロバート・バーンズ(Robert Burns、1759年~1796年 スコットランドの詩人)の詩に、1790年代に曲に乗せた「Comin' Thro' the Rye」 として、イギリスでは知られています。

 現代の英語に直すと、「Comming Through the Rye」となり、「ライ麦畑で出逢うとき」などと訳されます。

 この「故郷の空」には、有名な替え歌があります。
 「麦畑」または「誰かさんと誰かさん」という歌で、なかにし礼さんの作詞で、当時のテレビの人気者のザ・ドリフターズが歌って、1970(昭和45)年に、子供から大人まで、日本中で大ヒットしました。

♪「誰かさんと誰かさん ~麦畑~」

誰かさんと 誰かさんが 麦畑
チュッ チュッ チュッ チュッ している
いいじゃないか
僕には 恋人 ないけれど
いつかは 誰かさんと 麦畑


 当時は、「下品な歌だ」、「名曲を愚弄した替え歌だ」というような、批判も受けたそうです。

 ところが、元歌のスコットランド民謡「Comin' Thro' the Rye」の内容を要約すると、「誰かと誰かがライ麦畑で出逢うとき、2人はきっとキスをするだろう。何も嘆くことはない。誰でも恋はするものなんだから……」という内容になります。

 そうなんです。元歌に忠実なのは、「故郷の空」ではなく、「誰かさんと誰かさん(麦畑)」の方だったのです。
 今では「誰かさんと誰かさん」の作詞欄が、スコットランド民謡になっているものもあります。

 あの美しいメロディーの「故郷の空」の元歌が、「誰かさんと誰かさん(麦畑)」の内容だったとは、おもしろいですね。


<麦畑>



 最後は、「Comin' Thro' the Rye」をもじって、原題が付けられたと言われているベストセラー小説「ライ麦畑でつかまえて」(原題「The Catcher in the Rye 」)の話です。

 「ライ麦畑でつかまえて」は、アメリカの作家J.D.サリンジャーさん(1919年~2010年)が1951(昭和26)年に発表した小説で、作品の中には「Comin' Thro' the Rye」が歌われる場面もあります。

 あらすじを紹介すると、第2次大戦後間もないアメリカを舞台に、主人公の「ホールデン・コールフィールド」が、3校目に当たる「ボーディングスクール」を成績不振で退学させられます。
 彼が寮を飛び出し、ニューヨークを放浪して実家に帰るまでの3日間の話です。

 私は、落ちこぼれ意識や孤立感に苛(さい)なまれる主人公が、妹に問い詰めらた時に語った「将来の夢」を語るシーン、次のような言葉が好きです。
 「自分は、広いライ麦畑で遊んでいる子どもたちが、気付かずに崖っぷちから落ちそうになったときに、捕まえてあげる。そんな人間になりたい。」

 落ちこぼれでも退学者でも、将来の夢はやさしくステキですね。
 サリンジャー自身も退学経験をもつだけに、女が「母のふるさとスッコトランドの古い民謡」に託して書いた言葉は重みをもち、多くの若者の感動を呼びました。

 「ライ麦畑でつかまえて」は、全世界で6000万部売れ、60年以上経った今でも、年間25万部以上、売れています。



 <一句>

 台風が 過ぎ去り空は 故郷色

 

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