2015年10月21日水曜日

秋は夕暮れ ~日本の名作とグーリンフラッシュ(幸せの夕日)~

 知らぬ間に朝夕は冷えてきて、「釣べ落とし」の日が暮れるのが早くなりましたね。
 この季節になると、「夕暮れ」が愛しくも淋しく感じられます。
 そこで、日本の美しい言葉を辿って、少しセンチメンタルに、秋を楽しんでみましょう。

 まず、清少納言の「枕草子」の一節を書きます。

「秋は、夕暮。夕日のさして、山の端(は)いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。
まいて雁などの連ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。
日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。」

 美しい日本語ですね。原文がいいのですが、敢(あえ)て現代語訳もしておきます。

「 秋は、夕暮れがいい。夕日が差して、山と空の境界がすごく近く見える頃に、からすが自分たちのねぐらへ帰ろうとして、3、4羽、2、3羽と、急いで飛んで行く様子さえ、心にしみる。
 まして、雁が連なって飛んでいるのが小さく見えるのは、とても趣があってよいものだ。
 太陽が沈みきって、風の音、虫の音などが聞こえてくるのは、改めて言うまでもなく素晴らしい。」

 清少納言(966年~1025年)が「枕草子」を書いたのは、ちょうど1000年前の平安時代中期です。1000年後にも、心にしみる言葉って、すばらしいですね。


 次に、新古今和歌集(1204年=鎌倉時代)に収められた、「秋の夕暮れ」を詠んだ名歌を紹介します。

「心なき身にもあはれは知られけり しぎ立つ沢の秋の夕暮れ」
 
 これは、西行(1118年~1190年)が詠んだ歌で、現代語では次のようになります。
(秋の夕暮れ時に、鴫(しぎ)が飛び立ったあとの沢の静けさの中にいると、世を捨て出家したはずの私でさえ、切なく淋しい気持ちを感じてしまう。)

 この歌は、「秋の夕暮れ」を詠んだ、いわゆる「三夕(さんせき)の歌」の一つです。
 残りの二つの歌と現代語訳も紹介します。

「さびしさはその色としもなかりけり まき立つ山の秋の夕暮れ」(寂蓮)
(寂しさというのは色によるものではないようだ。まき(常緑樹)が並ぶ山の秋の夕暮れにも、寂しいという感情がしみじみと起きるのだから。)

 「見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕暮れ」(藤原定家)
(見渡すと、春の桜も秋の紅葉も何もない。ただ、海辺に粗末な小屋があるだけだが、秋の夕暮れは、こんな景色の中でもしみじみとした感情を感じさせる。)

 日本の「秋の夕暮れ」を歌った名歌は、他にもたくさんあります。

 今、流行りの欧米の「ハロウイン」は、夏から冬への境界の行事ですので、「秋の夕暮れ」をしみじみ感じるのは日本独特のものかも知れませんね。(ハロウィンについては、近々、取り上げようと思っています。)

<写真 秋の夕暮れ>


 

 ここからは、「グリーンフラッシュ」(緑の夕日)の話をします。
 「グリーンフラッシュ (Green flash)」は、太陽が完全に沈む直前、または昇った直後に、「緑色の光」が一瞬輝いたようにまたたく、非常に稀な現象で、「緑の閃光」ともいわれています。

 簡単には見ることができない自然現象ですが、「この光を見ると幸せになれる」という伝説があります。「幸せの夕日」と言ってもいいと思います。
 この話は、いくつかの作品に登場します。

 たとえば、「80日間世界一周」や「海底二万里」、「十五少年漂流記」など、多くの人気作品を書いたフランスの作家ジュール・ヴェルヌが1882(明治15)年に出した「緑の光線」という小説があり、その中で「緑の夕日の伝説」が取り上げられています。

 1984(昭和59)年に、大林宣彦監督、原田知世主演で映画化された「天国に一番近い島」でも、父を亡くした主人公が、ニューカレドニア(天国に一番近い島)で「幸せになれるグリーンフラッシュ(緑の夕日)」を探しにいく話が出てきます。

 さらに、1986(昭和61)年には、フランスの映画監督、エリック・ロメールが「緑の光線」という映画を発表しています。
 この映画でも、主人公の女性が、旅先で知り合った男性と一緒に緑の光線を見るラストシーンが、出てきます。

 日本の古典の「秋の夕暮れ」と現代の「緑の夕日伝説」、共通しているのは、夕陽に不思議な力を感じているということですね。

<写真 グリーンフラッシュ(幸せの夕日)>



 最後は、2015(平成27)年3月に、AKB48が39作目のシングルとして発売した、その名も
「Green Flash」(グリーンフラッシュ)という曲の一節を紹介します。


♪「Green Flash」 (作詞 秋元康  作曲 Catos K. 歌 AKB48)♪

(前略)
いつか観た 古いフランス映画
その中で言っていたそれが
太陽が沈んでく瞬間
最後まで残る緑の光

それを見たら幸せになれる
何だかいいよね じゃあね miss you!
切なくてただ会いたくて ずっと空を見る

夕暮れが夜に変わる前に
今日の出来事 すべて思い出す
明日 持って行くことだけを 選ぶんだ
もっとゆっくり 歩いて帰ろう

(中略)

もう少し強くなれたら
そう きっと君にも見える
しあわせが 君にも見える
Green Flash


せっかくの秋です。たまには、夕陽をゆっくり見つめてみませんか。
運がよければ、幸せの「グリーンフラシュ」が見えるかも知れませんよ。


<1首>

「しあわせを 探して風に 立ち止まる ハロウィン溢れる 秋の夕暮れ」  

 

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