「1ドル87セント、これだけ。もう、明日はクリスマスだ。」
今回は、こんな言葉で始まる、クリスマスを題材にした名作短編小説、O・ヘンリーの「賢者の贈り物」の話をしたいと思います。
私は、クリスマスの季節になって、華やかなイルミネーションやクリスマスソングを街で聴くと、なぜか、この「賢者の贈り物」の話を思い出します。
まず、あらすじの前半部分を紹介します。
「安アパートに住む貧乏だが仲のいい若者夫婦、ジムとデラ。
この夫婦には、宝物として自慢できるものが2つありました。
1つは、夫のジムが持っている「ピカピカの金時計」です。
お父さん、お祖父さんの代から伝えられている「由緒正しきの宝物」です。
もう1つは、奥さんのデラの「美しい長い髪」です。
デラが、長い濡れ髪を窓から乾かしたら、向かいの建物に住むあの「シバの女王」の財宝も、台無しになるほど、美しい髪でした。
このデラがクリスマス前に持っていた全財産が、「1ドル87セント」でした。
「これでは、ジムに素敵なクリスマスプレゼントが買えないわ。」
デラは溜め息をつきます。
デラは、ジムの金時計にぴったりの「プラチナチェーン」を、クリスマスプレゼントに贈りたかったのですが、それは20ドルもします。
手元にあるのは、何度数えても「1ドル87セント」です。
デラは、立ち上がると、一つの決心をして外出します。」
<文庫本「賢者の贈り物」 0・ヘンリー著(新潮文庫)>
このあとの物語は、後半へ続く。
ということで、ここでおもしろい計算をしてみたいと思います。
問題です。
「『賢者の贈り物』が書かれた時代の1ドル87セントは、今の日本ではどれぐらいの金額に当たるでしょうか?。」
2015年12月22日現在の1ドルは、約121円です。単純に計算すれば、226円になりますが、これではあまりに少なすぎます。
「賢者の贈り物」は、1905(明治38)年に、O・ヘンリーがアメリカで書いています。当時の日本は、「日露戦争」の終わった年で、為替相場は1ドル=2円02銭ほどです。
1ドル87セントは、3円77銭という計算になります。
この頃(明治38~40年)の物価を、現在の日本の物価と比較すると、白米で2465倍、公務員の初任給で3610倍、金で957倍です。
3つの真ん中で、物価の基準としても一般的な白米で計算すると、1905年アメリカの1ドル87セント=3円77銭×2465円≒9293円となります。
「1ドル87セント」を、平成日本の小説風に言うと、
「9293円、これだけだった。1000円札が9枚、100円玉が2枚、あとの93円は1円玉だった。」
というような表現になりますかね。(笑)
「賢者の贈り物」の作者O・ヘンリー(O. Henry)は、 本名「William Sydney Porter」で、1862(文久2=幕末)年に、アメリカのノースカロライナ州グリーンズボロで、医者の子供として生まれています。
15歳で学校を離れ、薬剤師、銀行員、ジャーナリストなど、職業を転々とし、1898年、銀行時代の横領の罪で、有罪判決を受けています。
1901年に釈放、1902年からニューヨークに住み、ここで多くの作品を発表しています。
1904(明治37)年、42歳の時に処女作『キャベツと王様』が出版され、以後、1910(明治43)年に肝硬変で47歳で亡くなるまでに、381編の作品を残しています。
「賢者の贈り物」のほか、「最後の一葉」、「二十年後」、「1ドルの価値」など、たくさんの名作短編小説を書いています。
私は、O・ヘンリーのウイットに富んだ世界が大好きで、ほとんどの邦訳作品は読んでいます。
今後、他の作品も、このブログで紹介できたらと、思っています。
<O・ヘンリー>
だいぶ、道草をしてしまいましたが、そろそろ、「賢者の贈り物」のストーリー(後半)の紹介に、戻りたいと思います。
「 外に出たデラは、『かつら・ヘア小物』と書かれた店のドアを叩きます。
デラは、自慢の長い髪をバッサリと切り、20ドルで売ってしまいました。
そのお金で、デラは愛するジムへのプレゼント、金時計に着けるプラチナ・チェーンを買って、家でジムの帰りを待ちます。
待つ時間が長くなると、デラは、長い髪を切った自分をジムが愛してくれるのか不安になって、髪を切ったことを後悔します。
ジムは帰って来ると、髪を切ったデラを見て、がっかりします。その様子を見て、デラは泣きそうになります。
ジムは、黙ってデラを抱きしめると、ポケットから『櫛のセット』を取り出し、デラにプレゼントします。
なんと、ジムはデラの長い髪のために、自慢の金時計を売って、櫛を買ってきたのです。
デラの買ったプラチナ・チェーンも、ジムの買った櫛も、使う相手を失くしてしまいました。
それでも、二人は大笑いして、今まで以上に幸せなクリスマスを、過ごしました。」
このすばらしい物語の最後に、O・ヘンリーは、こう付け加えます。
「 (キリストが生まれた日にやってきた)東方の三博士は、みごとなプレゼントを持ってきた賢者でした。いわば、クリスマスプレゼントの元祖です。
この二人のプレゼントは、彼らに負けないほど、賢いプレゼントだったのです。」
本当にすばらしい「クリスマス・プレゼント」は何か、この物語は教えてくれます。
ちなみに、「賢者の贈り物」の原題は、「The gift of the Magi」で、「Magi」は、聖書の『マタイによる福音書』(2:1-13)に出てくる三博士(三賢者)のことを指します。
イエス=キリストがお生まれになった時、星に導かれた東方の三賢者が、プレゼントを持って祝福に訪れたとの伝説があります。
この時のプレゼントは、メルキオール( Melchior =王権の象徴、青年の姿の賢者)が黄金、バルタザール (Balthasar =神性の象徴、壮年の姿の賢者)は乳香、カスパール( Casper =将来の受難である死の象徴、老人の姿の賢者)が没薬だったと言われています。
「乳香」は、カンラン科ボスウェリア属の樹木から分泌される「樹脂」で、古代エジプトの時代から現代まで、香水やお香の材料として使われています。
「没薬」も、カンラン科コンミフォラ属の樹木から分泌される「樹脂」で、ミルラとも呼ばれています。お香や線香として、エジブトや東洋で古代から使われ、防腐作用があるため、エジプトのミイラにも使用されています。ミイラの語源は、ミルラと言われています。
<クリスマス・キャンドル (100円ショップで購入)>
クリスマスは、欧米では家族と過ごす、日本でいう「正月」のような家庭的な行事なのですが、日本では、恋人や友人と過ごす華やかな夜というイメージが定着してしまいました。
この時期、鮮やかなイルミネーションが街を彩り、豪華なプレゼントがショーウインドウにあふれています。
でも、本当にすばらしい贈り物、「賢者のプレゼント」とは何か、考えてみたいものです。
ちなみに、クリスマスを12月24日のイヴの夜から祝うのは、ユダヤ教や教会暦では、日没で日付が変わる(つまり、12月25日になる)からだそうです。
私はクリスマスは、イヴも25日も仕事ですが、身内にいる不登校の小学生に、元気と勇気の出る「プレゼント」を考えて、贈りたいと思っています。
最後は、小説「賢者の贈り物」という同名の、さだまさしさんの歌の歌詞の一部を紹介します。
「♪君に クリスマスに何を贈ろうかと
今まで考え とても悩んでたんだ
お金でも物でもない 何かをずっと探して
淡紅(うすくれない)の君の頬が 僕に教えてくれた
君のその笑顔 守ることが 一番大切な贈り物♪」
(歌・作詞・作曲 さだまさし 2007年)
それでは、すてきなクリスマスをお過ごしください。
メリークリスマス!
<1句>
一人ゆく クリスマスの町 凍えそう
讃美歌と ネオンがシンクロ イヴの夜
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