2015年12月23日水曜日

クリスマスの名作「賢者の贈り物」O・ヘンリー ~最高のプレゼントとは~

 「1ドル87セント、これだけ。もう、明日はクリスマスだ。」

 今回は、こんな言葉で始まる、クリスマスを題材にした名作短編小説、O・ヘンリーの「賢者の贈り物」の話をしたいと思います。

 私は、クリスマスの季節になって、華やかなイルミネーションやクリスマスソングを街で聴くと、なぜか、この「賢者の贈り物」の話を思い出します。
 まず、あらすじの前半部分を紹介します。

 
「安アパートに住む貧乏だが仲のいい若者夫婦、ジムとデラ。
 この夫婦には、宝物として自慢できるものが2つありました。

 1つは、夫のジムが持っている「ピカピカの金時計」です。
 お父さん、お祖父さんの代から伝えられている「由緒正しきの宝物」です。

 もう1つは、奥さんのデラの「美しい長い髪」です。
 デラが、長い濡れ髪を窓から乾かしたら、向かいの建物に住むあの「シバの女王」の財宝も、台無しになるほど、美しい髪でした。

 このデラがクリスマス前に持っていた全財産が、「1ドル87セント」でした。
これでは、ジムに素敵なクリスマスプレゼントが買えないわ。」
 デラは溜め息をつきます。

 デラは、ジムの金時計にぴったりの「プラチナチェーン」を、クリスマスプレゼントに贈りたかったのですが、それは20ドルもします。
 手元にあるのは、何度数えても「1ドル87セント」です。
 デラは、立ち上がると、一つの決心をして外出します。」

<文庫本「賢者の贈り物」 0・ヘンリー著(新潮文庫)>



 このあとの物語は、後半へ続く。
 ということで、ここでおもしろい計算をしてみたいと思います。

 問題です。
 「『賢者の贈り物』が書かれた時代の1ドル87セントは、今の日本ではどれぐらいの金額に当たるでしょうか?。」
 
  2015年12月22日現在の1ドルは、約121円です。単純に計算すれば、226円になりますが、これではあまりに少なすぎます。

 「賢者の贈り物」は、1905(明治38)年に、O・ヘンリーがアメリカで書いています。当時の日本は、「日露戦争」の終わった年で、為替相場は1ドル=2円02銭ほどです。
 1ドル87セントは、3円77銭という計算になります。

  この頃(明治38~40年)の物価を、現在の日本の物価と比較すると、白米で2465倍、公務員の初任給で3610倍、金で957倍です。

 3つの真ん中で、物価の基準としても一般的な白米で計算すると、1905年アメリカの1ドル87セント=3円77銭×2465円≒9293円となります。

 「1ドル87セント」を、平成日本の小説風に言うと、
「9293円、これだけだった。1000円札が9枚、100円玉が2枚、あとの93円は1円玉だった。」
というような表現になりますかね。(笑)


 「賢者の贈り物」の作者O・ヘンリー(O. Henry)は、 本名「William Sydney Porter」で、1862(文久2=幕末)年に、アメリカのノースカロライナ州グリーンズボロで、医者の子供として生まれています。
 15歳で学校を離れ、薬剤師、銀行員、ジャーナリストなど、職業を転々とし、1898年、銀行時代の横領の罪で、有罪判決を受けています。
 1901年に釈放、1902年からニューヨークに住み、ここで多くの作品を発表しています。

 1904(明治37)年、42歳の時に処女作『キャベツと王様』が出版され、以後、1910(明治43)年に肝硬変で47歳で亡くなるまでに、381編の作品を残しています。

 「賢者の贈り物」のほか、「最後の一葉」、「二十年後」、「1ドルの価値」など、たくさんの名作短編小説を書いています。
 私は、O・ヘンリーのウイットに富んだ世界が大好きで、ほとんどの邦訳作品は読んでいます。
 今後、他の作品も、このブログで紹介できたらと、思っています。

<O・ヘンリー>





 だいぶ、道草をしてしまいましたが、そろそろ、「賢者の贈り物」のストーリー(後半)の紹介に、戻りたいと思います。


「 外に出たデラは、『かつら・ヘア小物』と書かれた店のドアを叩きます。
  デラは、自慢の長い髪をバッサリと切り、20ドルで売ってしまいました。
  そのお金で、デラは愛するジムへのプレゼント、金時計に着けるプラチナ・チェーンを買って、家でジムの帰りを待ちます。

 待つ時間が長くなると、デラは、長い髪を切った自分をジムが愛してくれるのか不安になって、髪を切ったことを後悔します。

 ジムは帰って来ると、髪を切ったデラを見て、がっかりします。その様子を見て、デラは泣きそうになります。
 ジムは、黙ってデラを抱きしめると、ポケットから『櫛のセット』を取り出し、デラにプレゼントします。
 なんと、ジムはデラの長い髪のために、自慢の金時計を売って、櫛を買ってきたのです。

 デラの買ったプラチナ・チェーンも、ジムの買った櫛も、使う相手を失くしてしまいました。
 それでも、二人は大笑いして、今まで以上に幸せなクリスマスを、過ごしました。」


 このすばらしい物語の最後に、O・ヘンリーは、こう付け加えます。
「 (キリストが生まれた日にやってきた)東方の三博士は、みごとなプレゼントを持ってきた賢者でした。いわば、クリスマスプレゼントの元祖です。
 この二人のプレゼントは、彼らに負けないほど、賢いプレゼントだったのです。」

 本当にすばらしい「クリスマス・プレゼント」は何か、この物語は教えてくれます。
  ちなみに、「賢者の贈り物」の原題は、「The gift of the Magi」で、「Magi」は、聖書の『マタイによる福音書』(2:1-13)に出てくる三博士(三賢者)のことを指します。

 イエス=キリストがお生まれになった時、星に導かれた東方の三賢者が、プレゼントを持って祝福に訪れたとの伝説があります。

 この時のプレゼントは、メルキオール( Melchior =王権の象徴、青年の姿の賢者)が黄金、バルタザール (Balthasar =神性の象徴、壮年の姿の賢者)は乳香、カスパール( Casper =将来の受難である死の象徴、老人の姿の賢者)が没薬だったと言われています。

  「乳香」は、カンラン科ボスウェリア属の樹木から分泌される「樹脂」で、古代エジプトの時代から現代まで、香水やお香の材料として使われています。

  「没薬」も、カンラン科コンミフォラ属の樹木から分泌される「樹脂」で、ミルラとも呼ばれています。お香や線香として、エジブトや東洋で古代から使われ、防腐作用があるため、エジプトのミイラにも使用されています。ミイラの語源は、ミルラと言われています。

<クリスマス・キャンドル (100円ショップで購入)>



 クリスマスは、欧米では家族と過ごす、日本でいう「正月」のような家庭的な行事なのですが、日本では、恋人や友人と過ごす華やかな夜というイメージが定着してしまいました。
 この時期、鮮やかなイルミネーションが街を彩り、豪華なプレゼントがショーウインドウにあふれています。

 でも、本当にすばらしい贈り物、「賢者のプレゼント」とは何か、考えてみたいものです。
 ちなみに、クリスマスを12月24日のイヴの夜から祝うのは、ユダヤ教や教会暦では、日没で日付が変わる(つまり、12月25日になる)からだそうです。 

 私はクリスマスは、イヴも25日も仕事ですが、身内にいる不登校の小学生に、元気と勇気の出る「プレゼント」を考えて、贈りたいと思っています。

  最後は、小説「賢者の贈り物」という同名の、さだまさしさんの歌の歌詞の一部を紹介します。

「♪君に クリスマスに何を贈ろうかと
 今まで考え とても悩んでたんだ
 お金でも物でもない 何かをずっと探して
 淡紅(うすくれない)の君の頬が 僕に教えてくれた
 君のその笑顔 守ることが  一番大切な贈り物♪」

(歌・作詞・作曲 さだまさし 2007年)

 それでは、すてきなクリスマスをお過ごしください。
 メリークリスマス!


<1句>
 一人ゆく クリスマスの町 凍えそう

 讃美歌と ネオンがシンクロ イヴの夜

 

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